あなたの会社の貸借対照表、ただ眺めていませんか?
経営者が「未来をデザインする」ためのBS活用術
1. はじめに
多くの経営者にとって、貸借対照表(B/S)は、会計事務所から定期的に受け取る「過去の成績表」のようなものでしょう。複雑な数字が並び、会社の過去の状態を示すだけの書類だと捉えられがちです。
しかし、その『過去の成績表』を眺めているだけでは、未来の成長はデザインできません。本質的に、貸借対照表は過去を振り返るためのものではなく、経営者が会社の未来を能動的に「デザイン」するための、最も強力なツールなのです。
2. 経営の視点を変える、3つの重要な気づき
貸借対照表を戦略ツールとして活用するためには、まず考え方の転換が必要です。ここでは、あなたの経営視点を変える3つの重要な気づきをご紹介します。
2.1. 気づき1:ファイナンスは「未来」、会計は「過去」
まず理解すべきは、会計とファイナンスの根本的な違いです。
- 会計:過去に起きた取引や活動を記録し、その結果を「過去の数字」としてまとめるものです。
- ファイナンス:会計が示す数字を基に、これからどう資金を調達し、どう投資していくかという「未来の数字」を計画するものです。
優れた経営者は、会計報告書を受け取って一喜一憂するだけでなく、その数字を使って未来をどう創るかを考えます。この「ファイナンス思考」こそが、戦略的な経営への第一歩です。
2.2. 気づき2:貸借対照表(B/S)は、受け取るものではなく「デザインするもの」
この記事の最も重要なメッセージがこれです。貸借対照表は、単なる結果報告書ではなく、経営者が自ら創り上げる「未来の設計図」なのです。
これは、3年後や5年後に自社がどのような財務体質になっているべきか、その理想の貸借対照表の姿を具体的に目標として設定することを意味します。なぜなら、目指すべきはB/Sを「成長」させ、同時に「筋肉質」なものにしていくことだからです。
B/Sは、経営者がデザインするもの
この考え方は、経営者を単なる業績の「観察者」から、会社の財務構造を積極的に構築する「設計者」へと変貌させます。
2.3. 気づき3:優れた経営は「逆算」で考える
では、どうやって貸借対照表を「デザイン」するのでしょうか。その具体的な手法が「逆算思考」です。
まず、3年後あるいは5年後の理想的な貸借対照表の姿を定義します。そこから逆算して、その目標を達成するために「今から何をすべきか」を考え、具体的な行動計画に落とし込んでいくのです。
経営は逆算です
例えば、目標として「3年後に自己資本比率を60%にする」あるいは「流動比率を200%に改善する」といった具体的な数値を設定します。ちなみに流動比率200%とは、1年以内に出ていくお金1に対して、入ってくるお金が2ある状態を目指す、ということです。
ここで重要なのは、60%や200%という数字そのものではなく、「具体的な目標を立て、そこから逆算して計画を立てる」という行為そのものです。
3. まず、どこから手をつけるべきか?
「デザイン」や「逆算」と言われても、どこから始めればよいか分からないかもしれません。その第一歩として、まず取り組むべきは「流動資産」と「流動負債」のバランスを整えることです。
- 流動資産:1年以内に入ってくるお金
- 流動負債:1年以内に出ていくお金
もし、出ていくお金(流動負債)の方が入ってくるお金(流動資産)よりも多ければ、会社の経営は常に不安定な状態に置かれます。これでは、未来への投資どころではありません。
最初のデザインは、**「流動資産 > 流動負債」**の状態を確実に作り上げることです。これにより、短期的な資金繰りの不安が解消され、より長期的で戦略的な経営判断を下すための土台ができます。
4. まとめ
貸借対照表は、決して過去を記録するためだけの静的な書類ではありません。それは、経営者が会社の未来を描き、実現するための動的な戦略ツールです。
会計の視点からファイナンスの視点へと思考を転換し、自社の財務の「設計者」として未来のあるべき姿から逆算して今日の行動を決める。このアプローチこそが、会社をより強く、筋肉質な財務体質へと導きます。
最後に、あなたに問いかけます。
「あなたの会社の3年後の貸借対照表は、どのような姿をしていますか?」

